WORLD CITIZENとはもう歌えない

男と女の性差がない世界に僕らは住んでいて、
ユニセックスな音楽を聴いては、
このギターパートはいい、あるいはよくないだなんて、
退屈しのぎには最適な、
時間の過ごし方をしている。
僕らはあまりに犯罪的なモラトリアム集団だ。

朝の仕事が一通り終わったころ、
ダンジョン&ドラゴンズのプレイヤーが放った弾丸が、
元大統領の耳をつらぬく。
その弾丸の所在、仕入れ先は分からずじまいだが、
容赦なくそいつは、容赦のないスピードで、
星条旗でさえ灰色にくすませていく。

凄まじい格差の時代に僕らは生きていて、
フェイクも真実も無造作にインプットされていく。
メディアではもはや右も左も混沌としている。

カフェオレ片手に母ととる朝食。
縁側に吹き込む風はこれ以上なく気持ちいいのに、
この靄がかかったような不穏さはなんだ。
マリー・アントワネットが自らの生首を抱え、
最後の晩餐はLGBTの裸の男に揶揄された。
騎士は災厄をもたらす男だという話だし、
悲劇はいつまで経っても終わりそうにない。

革命とは手をつなぎ合って歌うことでもなく、
自由、博愛の精神を唱えることでもなく、
革命とは暴力そのものである。
そう言ったのは毛沢東だったか。
僕らは、もう暴力が見えない速度で、
至るところに潜んでいるのを知っている。
まったく、何が起こってるんだ?
  
  それに、
規模は小さくともいさかいは絶えない。
夫の収入を嘆く女。
妻より若い女を選ぶ男。
過剰に期待された子供の末路。
幼子のあまりに陰りのある反逆。
デヴィッド・ボウイのセリフ。
10代のころ若い青年を上手にファックしてやった。
だから僕は刑務所でも充分やっていけると思ったんだ。
そいつがまともに聞こえるなんて、
なんて異常な時代だ。

僕もあなたも間違いと正しいことを繰り返して、
何度も何度も生きていく。
失敗も過ちも抱えて、その痕跡さえ残して、
繰り返し繰り返し生きていく。
その先には何があるんだ?
僕は理想の歌、世界市民を旗にする、
WORLD CITIZENをもう歌えない。
悲しいことだ、そうだこれは悲しいことなんだ。
僕はもう理想の歌、
WORLD CITIZENをもう歌えないんだ。

7件のコメント

  1. 山崎ナオコーラの「人のセックスを笑うな」を読んだかのような読後感。
    凄い詩である。
    語り手が正しいことを言ってそうなのに、よくよく読んでみると全体的にちぐはぐで語り手自身を自ら痛烈に批判している。
    第一連で、性差がなく、ユニセックスな世界観でモラトリアムを謳歌していることを後ろめたく思っているくせに、第六連で90年代あたりの日本の世界観を嘆いて、他者を踏みにじるマッチョ思想をしらっと肯定している。
    第二連の星条旗はくすんだとあるが、本当にくすんだのだろうか?
    あまりにアメリカ的な、アメリカ的な物語に回収されてしまって、むしろ星条旗を復古せよとぎらついたのではないか。
    第四連の揶揄されたことが本当に問題なのだろうか?
    コーランを、モハメッドを踏みにじった国が表現の自由を声高に謳っていたのに、軽々に謝罪してしまったことの方が問題であろう。
    第五連など、「では、これからどうするか」の問いを立てることなく、「僕」は惑うばかり。
    世界とずれ、時代とずれ、自分の誓いとずれ。
    そら、WORLD CITIZENを歌えないと、自己陶酔してしまうのかと納得してしまう運びとなっている。
    残酷な世界であっても失望しないとかつて歌った青年が、残酷な世界に倦み疲れて失望してしまう姿に、哀しくなってしまった。

    1. ひとアンズさん、コメントありがとう。思わずひとアンズさんを嫌いになりそうな論評だったよ。現実とは物事の分別と決断の連続で出来ていて、その過程でこの詩は生まれたものだ。だから最終節の話者、を自己陶酔して、失望してしまったかつての青年ととらえられてしまったのがとても悲しいし、残念だ。凄い詩だ、という言葉が皮肉か揶揄に聞こえてしまう。第六連でマッチョ思想をしらっと肯定している、とあるが俺自身にはそんなつもりはない。だがしかしけいせいさん、これはこれこれこういう構図になってて、マッチョ思想を肯定しているんですよ!とひとアンズさんが声高に言うなら、そうですか、としか俺も返しようがない。世界とずれ、時代とずれ、自分の誓いとずれ、というのは筆者である俺への侮辱だろうか。まあ俺も詩と詩の話者と作者を切り離すことぐらいはできる。だがしかしあまりに悲しいそして酷薄な解釈であった。人間の戦いは続いてく。それは終わりがない。それは人のためでも国のためでもある一定の理想や宗教、理念のためでもない、一人の人間としての基準、価値観のための戦いだ。この詩の話者が何か倦みつかれて挫折したように見えるのなら、それは俺の失態でもあるし、同時にひとアンズさんが自由に解釈した結果の一つに過ぎない。ここで問題提起だ。人は一つの理想、理念のためだけに殉じるべきかどうか。この答えは、極々個人的な勝利のために考えるのなら明らかにノーだ。60年代のアメリカ公民権運動に身を投じて、のちに政治家に転身したある人物の言葉を俺は思い出す。「あなたは変わりましたねと人は私に言う。変わらない人間なんていません。なせ私があなたのために狂信者でいなければならないんですか」。俺はこの男ほど狡猾に立ち回りもしないし、立ち回ろうとも思わないが俺は人生で必ず勝利する。誰のためか。それは理念、宗教、思想、理想などのためではなく、ひとえに「自分のため」なのだ。例え話だ。ある一つのムーブメントがあるとしよう。そこから離脱した人間を敗残者、逃亡者、離脱者と罵る連中が中にはいるかもしれない。だが、その人間はもっと崇高なそして地を這うような戦いに臨んだのかもしれない。俺はこの詩中の人物はその最中にあると踏んでいる。沈む船ととも神に祈り続けるか、それとも沈む船から脱出し、「生還」するために行動しつづけるか、どちらを選ぶかで人生は大きく変わる。そこでは人の評価など関係ない。自分の命のための戦いなのだから。というわけで長々とひとアンズさんのこの酷評なのか、賛辞なのかよくわからない論評相手に書き綴ってきたわけだが、最後にシャルル・ド・ゴール俺の好きな名言を引用して終わる。「フランスは戦闘には負けたが戦争には負けていない」。そうだ、どんな極限状態、どんな悲壮な事態に陥っても勝機はある。なぜなら戦いは死ぬまで続いていくのだから。

  2. こんにちは、keisさん。
    なぜ、world citizenを歌えないのかな、というのが気になりました。
    理想の破綻、をおっしゃりたいのでしょうか。もはや市民に値する人間など事実上存在していないから?
    それと、僕は音楽を聴くときに、sexを想起したことは一度もありません。例外は、プリンスくらいです。
    だから、ユニセックスな音楽、という言葉に違和感を感じました。
    それから、些細なことなのですが、ダンジョンズ&ドラゴンズというのが、正しい呼び方です。
    あと、デヴィッド・ボウイのことは、良く知らないのですが、そういうセリフを言っていたと聞いて、
    大変に失望しました。
    全体的に、時代との関り、時代の進み方について述べられていますね。
    keisさんが正しいことを証明するためには、keisさんが、自分の歌を作詞作曲して歌うことが必要だと
    思います。村八分という日本のバンドの、チャー坊というボーカリストがライブで言ったのですが、
    「見てる方はいいなあ、見てる方はいいで。もっと見て」と言っていました。
    keisさんは、きっと、見てるだけではないですよね。愛をください。

    1. 黒髪さん、コメントありがとう。愛は幾らでもあげられる。表面的な愛だけならなおさら。この詩はそれでも!大変な世相、大変な時代、それでも!愛を歌えるか!?という詩になっている。黒髪さん、愛が欲しいかい?愛は幾らでも世界に転がっているぞ。そこかしこに、職場に、友の言葉に、そこかしこに。当然この詩においてでさえも。それをくみとれないのは、ひょっとして黒髪さんが愛に欠乏しすぎてるせいかもしれないし、愛に飢えているからかもしれない。時折人間は自分のまわりの状況を整理して、決断しなければならない。この詩は悲観しているようでいながら、前へ進もうとする希望の詩であるかもしれないのだ。愛は黒髪さんの期待する形では与えられないかもしれない。だが、くみとるのだ。そこかしこに潜む愛を、熱意を。それだけで人生は変わる。黒髪さんも愛を求めるだけでなく、与えるのだ。僕は誰からも愛を奪い取りはしない。

  3. keisさんは、愛を与え惜しむことはないのですね。それなら、何も言うことはありません。
    worldは私たちの活躍の場所、まだまだこれから!社会参画を止めないセンで生きましょうよ。
    隠れていると、つまらない。

  4. 別に隠れとりゃせんがなー笑 僕はね、黒髪さん。世の中は悪い一面も時に立ち現れるけど、基本的にドンドンよくなってると思ってるの。社会参画を率先してしなくても、みなが少しずつ尽力してよくなっている。俺が!僕が!私が!社会問題に関わって世の中をよくする!ってやってるとむしろ歪になるのね。本人の負担も出てきて、一朝一夕じゃ自分の思う通りにならない世の中を侮蔑したり、軽蔑したりする。そうなると本末転倒なのね。俺は人の良識、バランス感覚を信じている。未来は決して破滅的にならない。破綻しない。だから僕の好きな言葉を最後に引用してこのコメントを締める。「我々は未来に対して常に楽観的であるべきだ」。

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