蝶々のような

台風が近づく縁側、真夏特有の香りが鼻をくすぐる。
あふれるニュースは、明るい未来への道しるべではないのに、
人はまだ夢を見ている、繰り返し繰り返し。
それは僕でさえ例外じゃない。
未来に無形の、それでいて最高の価値があると、信じている。
雨風が徐々に強くなっていき、吐く息が凍え出しても、
僕は子供たちへのプレゼントを壊したりはしない。

雲が一段と速度を増し、瞬く間に遠のいていく。
一瞬の、過ちや間違いは、一瞬の出来事だったはずなのに痛烈だ。
それでも僕は人を好きでいる方法を探している。
蝶々のように移り気なそれは、めったに目にする機会はないが、
ひらりと舞って、羽根がちぎれそうなかよわさを、
僕の瞳に焼きつけている。

今日の夕刻には暗雲も遠ざかるだろう。
その頃には僕も冷静になって、
書き綴った文章の一つや二つ、
大して重要ではなかったと気づくかもしれない。

僕は自分を信じるか、信じないかの瀬戸際にいて、
毎夜寄り添ってくる悪夢の理由を探したりしている。
寝苦しい夜を抜けると、そこには笑顔のままの、
あなたが待っているに違いない。
晦冥に住む老人が、僕の追いかけるべき人では、
もうなくなったとしても、
朝方、目覚めの時には、
黒く塗装された左の掌に、赤いバラが咲いている。

1件のコメント

  1. 投稿ありがとうございます。

    今私はツァラトゥストラに送る手紙を書いています。書く以前はこの文章(私が文字列と表現するもの)の味がしませんでした。今噛んで見ると、味がわかる不思議な経験をしています。もっと色々な文字列を味わえる人になりたいと思いました。

    左の掌、ひらひらり。右の掌を、想像しました。

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