これほど人を信じられないようになるなんて。
自分を欺いて甘やかしてきた結果さ。
人を裏切ってだまして嘘をついて、
住所を変えて、もう名前まで本名じゃない。
辛うじて明日を勘定できるくらいなのに、それなのに君といる。
これも神様を煙にまくためのテクニックだとしたら、
僕は相当にひどい男だ、なのに君の指先に触れる僕の手は優しい。
獣の道にはぐれてしまったんだね。
お金を落とさせた男、投資資金と募った老婆のお金。
資金をくすねたクラファンのアカウント、遊び溺れ貢いだホストの薄ら笑い。
そのすべてが君の横顔を形作るパーツの一つ一つだ。
僕も似たようなこと、いやそれ以上のことをしてきたから、
君が覗き込む僕の頬に、君と同じくすんだアザがあるのは、
当たり前と言えば当たり前かもしれない。
貴金属に埋もれてバスルームにいるというのに、
それが最高の夢だと追いかけてきたのに、
まだ目に見えない何かを信じようとしているなんて、
随分と不思議なお伽噺のようじゃないか。
愛や優しさの類なんて、吹けば飛ぶような代物だと知っているのに、
僕はまだ君を愛してるんだ。だからきっと手の温もりは嘘じゃない。
一人で生きていけると信じていたから、
異国で弾丸が飛び交っていたとしても興味の外だ。
どうしようもなく汚れた身勝手な生き方だとしても、
辿り着いた場所がここだった。仕方ない。
でも一人で生きていく。なんて嘘っぽい話だろう。
それでも僕は僕自身をまた欺き、だますだろう。
ただ自分を利するためだけに。
ひっそりと花が咲く都市の奥の方、
誰も見れない知れない探せない、都市の奥の方で、
僕のざっくり開いた胸の傷を優しく愛撫しておくれ。
泣きながらでもいい、それでいいから。