HONDAスーパーカブc110 ja07


去年の終わりに小型二輪の免許を取った。最近はフードデリバリーを生業にしている人も多いらしく、普通自動車免許で乗れる50ccの原付ではあまりにも制限が多いため、人気のライセンスらしい。とは言え小型二輪で乗れる免許もまた原付であることに変わりはなく、排気量125ccまでの原付に乗れるようになる。50ccより排気量が多く125ccまでのバイクを原付2種と呼んだりもする。原付といえば道路の片隅をひとり、とことこ時速30kmで走り続ける乗り物を思い浮かべるが、原付2種は高速道路には乗れないまでも法定速度は時速60kmである。二段階右折をする必要もない。市街地を走るには丁度いい乗り物だ。

免許を取るための教習所ではHONDAのCB125というとてもかっこいいバイクに乗った。どうせMTなんて乗らないのだからAT限定でよかったような気もするけど、教習所でくらい半クラッチを使いこなしながらキレイにギアを繋いでいくあの感覚を経験しておきたかった。「エンジンと会話をしている感じ」とまで言ったら大袈裟かもしれないけど、バイクという乗り物は車と比べても乗っている最中搭載されているその内燃機関を直に感じる乗り物なのだな、と思い知った。股下にあるのだから当然なのかもしれないけれど。

例えば60km/hで走行中にギアを間違って一段落としてしまったらどうだろうか。もう何年もMT車なんて乗ってないからあまり自信はないけど、エンジンブレーキがかかって体はシートベルトを少しだけ引っ張るだろう。「おっ」と思う間に体勢は再び整ってギアを上げまた新たな加速に身を委ねるのかもしれない。僕はちなみにバイクでそれをして前のめりに転びかけた。バイクで前のめりに転ぶというのはつまり死ぬということなのだが、この狭いコースで60km/h出す馬鹿がいるかと散々怒られるだけで済んだのはラッキーだった。ただそれで懲りるということはなく走行中に色々なことを試してそれが直にエンジンに伝わり、自分が跨がっている鉄の塊がその通り駆動するのが何故かとても楽しかった。

とは言えMT車なんてどうせ乗らないだろう、というのは揺るがなかった。自分は飽くまで仕事で乗るのだからスンと座っているられるスクーターがいいに決まっている。色々親切に教えてくれた教官が「バイクの運転が上手い人ほどハンドルと体の距離が一定にならない」と言っていた。バイクは道を曲がるにも3種類くらいの曲がり方があって郵便配達の人がよくやっている、身体を起こしたまま車体を傾けて路地などの入り組んだ道を鋭く曲がっていくやり方もあれば、サーキットでレーサーが「膝付くんじゃないか」ってくらい地面スレスレに体を投げ出して高速で曲がっていくやり方もある。バイクに乗るのが上手い人ほど道の状況をよく見て適切な曲がり方とその時の最も安定する重心の取り方を選択するからハンドルと体の距離は一定にならないそうだ。ものすごくワクワクする話だし、聞いててとても楽しかったけど頭の中では「寿司運んでるときそれやったらどうなるんだろう」だった。

そういうわけで無事検定も合格して免許も更新し実際に仕事で使う原付を探し始めた。それまで乗っていたのがSUZUKIのレッツ2で通勤や遊びに使い倒してまだ全然乗れる状態だったのでSUZUKIのアドレス110を後継に考えていた。ここだけの話レッツもアドレスも他のバイクに比べて50mmほど車体の幅が狭い。これがどういうことを意味するかというと渋滞でにっちもさっちも行かない道路で車の左側をスルスルと抜けていくことが容易いということ。僕はもちろん生まれてから一度もすり抜けなんてしたことがないけど、フーデリをすり抜けなしでやるだなんて頭がイカれていると言われても仕方がない。

近所のバイク屋のオヤジにアドレスの安い中古がないか聞きにいったら、意外なことを言われた。「通勤とか軽い街乗りに使うならもちろんいいバイクだけど、仕事で使うのはどうだろう」と。確かに一日200km乗ることもあるしそういう使い方は想定されていないのかもしれない。だったらどんな原付がいいのか聞いたら「カブとかベンリィみたいな仕事用のバイクを乗り継いで行ったほうが最終的にはいいんじゃないか」と。

──カブか

HONDAのスーパーカブは言わずと知れた原付の代表的な車種で50ccもあるし110ccや125ccもある。スクーターと違いギアチェンジがあるが、クラッチ操作はいらないのでATの免許で乗れる。ちなみに現行のカブの125ccは44万円と目玉が飛び出るようなプレミアムバイクなので論外として110ccはそれなりに手頃なのでいいんじゃないか、という話になった。じゃあカブの110ccここにあるのか、と聞いたら、「無いよ、だってもう生産終わっちゃったからね」と言われた。正確にいうと2022年にスーパーカブ110ccの新しいモデルが発表される予定だそうな。新しいスーパーカブはブレーキの仕様が変わったりABS(タイヤがロックしないようになんやかんやするシステム)が付くらしく今のモデルより高くなることが予想される。当然車体価格をできるだけ安く済ませたい僕にはあまり関係のない話だ。つまり今のうちにカブの110ccの在庫があるところを探してみたら、ということだった。

そうして僕はSUZUKIの50ccに跨がってGoogleマップに載っている市内のバイクショップをひとつひとつ数珠繋ぎにしていくツーリングに出かけたのだった。

画像はSUZUKIレッツ2 ただ僕の乗ってたのはもっとボロボロだった。

(この話は2回に分けて連載します。近いうちに次回の更新をするつもりですのでよろしければお待ちください)


ukari

2件のコメント

  1. はろーはろー、

    むかしスズキのチョイノリという原付にのって、環八を爆走したことをおもいだした、あの時わたしは、とてもかっこいいヘルメットを被ったりして、

    ときどきずっと、ここを眺めに来ています、まっしろで、
    きれいな場所をよごしたくないけれど、何かお手紙をしたいときだってあるよね、かみさま、

    (それから某ねこ賞、わたしはukariさんのなまえをみつけてしまって、そのうしろにどうしても投稿したかったんです、)

  2. 武田地球さんこんばんは。ご無沙汰しております。

    原付はいいですよね。乗ってみるととてもすごい乗り物なのに、傍からみると「手前、原付などというつまらない乗り物でして」って謙虚な感じ出しててね。

    コメント、どうするか悩んでいたんですよ。こうしてレスポンスをいただけるの(やっぱり)凄く嬉しいし。あったほうがいいな、という気持ちが少しずつ膨らんでいます。どうかご遠慮なさらず。

    僕もすぐ後ろに地球さんの詩が投稿されているのに気づいて、なんだか四葉のクローバーを見つけたみたいな気分になっていました。あれはそういう成り行きだったのですね。それはそれでとても光栄です。

    ちなみに僕は「ポエムと云うもの」がとても好きです。あの詩、最初は「ポエム」て言葉に引っ張られて、作品全体に横たわっている、話者の息遣いに迷彩がかかっているんですが、そっと耳を澄ますと、掌に乗る初めての雪も、3個1パックで売られるプリンの無責任な甘さも、珈琲を飲み干してほっと息をついた時に部屋から見える景色も、すぐ隣にあるようでね。そんなふうに思えたときに「じゃあポエムってなんだろう」って思うんですが。なんなんでしょうね。無くてもいいけど。無いと、その僅かな息遣いも消えてしまいそうで。

    なんだか長くなってしまいましたが、また武田地球さんが書かれる詩や文章をどこかでお目にかかれたらと期待しております。あ。「なにもないところ」に書いてくださったらとても嬉しいかも。でも本当にいずこでも。

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